5. 三人の斥候

 村の祭りがはじまります。

 ヴィンとハリーは同じテーブルに着いて、祭りの様子をながめています。

 ヴィンは若い女の姿が見えないことを不思議がりますが、ハリーは意に介していません。

 オライリーは、親に手を引かれて祭りを見物している子どもたちの後ろに控えています。暇つぶしのつもりか、ナイフで笛を作っています。

 試みにその笛を鳴らしてみると、前にいた女の子が振り返ります。

 オライリーはその子に向かって、笛を鳴らして見せます。今度は、他の子どもたちも振り返ります。

 子どもたちは笛とオライリーに興味をそそられたようですが、近寄ってくる子はいません。オライリーの前にいた子も、母親に手を引っ張られて、広場の祭りに顔を向け直します。

 どうやら村の親たちは、危険に巻き込まれることを怖れて、クリスたちガンマンに近づかないよう、きつく言い渡しているようです。

 オライリーはまた笛を吹き、女の子が振り返ると、微笑んで、その笛を差し出します。

 女の子はしばらくためらっていますが、やがてつながれていた手を離してゆっくり笛を受け取ると、手を引っ込めて、また祭りの方に目を向けます。オライリーは優しげな笑みを浮かべて、その子を見つめます。

  ※ オライリーの子ども好きな一面が垣間見える、いい場面です。

    オライリーの子ども好きを表す場面は、この後にも出てきます。

    決して子供好きのするような顔ではない(失礼!)チャールズ・ブロンソンが

    演じているからこそ、いい味を出していると云えます。

 オライリーの子ども好きな一面が垣間見える場面に続いて、村を下見にやってきた三人の斥候に対処する場面となります。

 クリスはカルヴェラの斥候らしき人物が来ていることを知ると、平然としてブリットのいる裏手に行き、三人の斥候が来たらしいことを教え、彼らを生け捕るよう指示します。

 三人の山賊相手に、大騒ぎする必要はありません。村人たちに山賊が来たことを教えれば、大騒ぎとなって、収拾のつかない混乱を惹き起こしかねません。

 村人たちが祭りに興じているのを幸いに、無用の騒ぎを起こさず、穏便に相手を虜にしようと云うのが、クリスの目論見です。

 ヴィンやハリー、オライリーなどは、なにかが起ったことを察しても、いたずらにクリスの後を追って、なにが起ったのかを問い質すようなことはしません。クリスと同じく、無用の混乱を惹き起こしかねない行動は慎み、いざと云う際に素早く対処できるように、さりげなく、その態勢を整えるだけです。

 経験の浅いチコは、まず、何が起ったかを知ろうと、そのための行動を起こします。その行動が村人たちにどんな影響を与えるかについては、気が回りません。

 空模様を確認し、手袋を引っ張って手に馴染ませるリーのしぐさ、聞いていない振りでクリスの指示を聞き、さりげなく行動に移るオライリー、祭りを見物しているような態度でクリスの行動を注視し、情況を察してガンベルトを装着したり、配置についたりするヴィンやハリー、それぞれの行動が、それぞれが経験を積んだガンマンであることをしめしています。

 ブリットとリーは裏山に登りますが、途中で、三頭の馬を見つけてその近くに身を隠します。

 チコはすでに拳銃を抜き、ふたりとは別の道をとおって、同じ場所にやって来ます。

 ブリットは馬の近くの木の陰に胡座をかいて座り、チコは少し離れたところで腹這いになります。リーはやや離れた下の方で待機しています。

 ブリットは近くの草花を摘んで、無心にそれをいじっています。その様子を、腹這いになったチコが、感心したようにながめています。リーは拳銃の台尻を撫でながら、周囲に目を配っています。

 チコが頰杖をついて油断していると、その足もとから、三人の山賊たちが姿を現します。

 気配に気づいて振り返ったチコは、驚いて、その中の一人を撃ち殺します。

 応戦しようとしたもう一人を、ブリットが倒します。

 村にもその銃声が聞え、村人たちが動揺します。

 生き残った山賊が、懸命に馬を走らせて遠ざかっていきます。

 チコはブリットに駆け寄って弁解します。

 ブリットはチコを制し、両腕を真っ直ぐに伸ばして狙いをつけると、一発で、彼方に逃げ去ろうとしていた山賊を撃ち倒します。

 その伎倆に感嘆し、称賛するチコに対して、ブリットは怒ったように向き直ると、

「ミスった、馬を狙ったんだ」

 と、面白くなさそうに云います。

 チコはまだその必要がないのに、早々に拳銃を抜き、肩に力を入れています。いざと云う際には慌ててしまい、無用の発砲をして、クリスの目論見を壊してしまいます。

 ブリットは木の陰に胡坐をかいて草花をもてあそび、すっかりくつろいでいますが、いざと云う際には、素早く、確実に、相手を倒します。

 ブリットたちの本来の目的は、斥候の山賊を生け捕りにすることです。だからこそ、ブリットは逃げる山賊の馬を狙ったのですが、弾は逃げる山賊自身に当たりました。

 本来の目的からしても、射撃の伎倆からしても、明らかに失敗です。

 自分の伎倆を高めることを最大の関心事とするブリットにとっては、腹立たしいことです。まして、そのことを理解できない相手から、その伎倆を称賛されたり感心されたりするのは、不本意なことです。

 ブリットと違って、リーにはその伎倆を見せる場面がありませんでした。無用に動かないこと、不必要に発砲しないことが、チコと対比されています。

 ブリットとリー、それぞれ違った形で現れてはいますが、事態に対するそれぞれの対処が、プロとしての対処として描かれています。

 チコの対処が未熟であることが、よりいっそう、よりはっきりと、浮かび上がります。

 村では祭りが中断し、みなが不安そうに静まり返っています。

 クリスは、カルヴェラの斥候が三人来た事、おそらくは自分たちガンマンの姿を見ただろう事を、村人たちに明かします。

 鐘楼にいるオライリーの合図で、斥候は三人とも倒したことを知ると、安心したような表情になって、その旨を村人たちに伝えます。

 村人の一人は、いま来られたら、えらいことになる、と、不安がって十字を切ります。

 クリスたちは昨日村に着いたばかりで、カルヴェラたちを迎え撃つためのなんらの準備もできていません。

 クリスはまだ時間に猶予があることを説明して、

「やつらが思いもかけなかった方法で迎え撃って、慌てさせるんだ。食い物の値打ちがどんなに高いか、やつらに教えてやるんだ」

 と、村人たちにハッパをかけます。