15. クリスたちの決意
クリスたちは、カルヴェラの手下によって、村はずれまで送られます。
カルヴェラの手下たちは村はずれまで来ると、クリスたちから取り上げた銃を地面に放り出し、村に引き返します。
チコが村人たちに対する憤懣をぶちまけます。
ここではじめて、チコが農家の出であることが明らかになります。
チコは、「恩も義理もないやつらだ。馬に食わせるような食い物と、草も生えないような畑を後生大事にしやがって」と、村人たちを罵りながらも、村人たちをそのようにしたのは、クリスやカルヴェラたちのような、銃を持った奴輩だ、と、言い放ちます。
銃を持った奴輩が、村人たちの物資を略奪し、その生活を脅かし、村人たちを、恩も義理もなく他人を裏切り、わずかな食糧と土地を守って細々と生きていくような人間にした、と、云うのです。
チコは「馬に食わせるような食い物と、草も生えないような畑を後生大事に」して、「銃を持った奴輩」にビクビクしながら生きている生活を嫌い、ガンマンとしての生き方にあこがれて、一人前のガンマンとして認められようと懸命になりました。命を落とす危険を顧みず、敵の銃弾に身をさらし、敵中に潜入してその情報を探りました。クリスたち熟練のガンマンに認められたことを確信するまでになりました。
そのチコが、いまではクリスたち「銃を持った奴輩」を批難し、自分もその「銃を持った奴輩」のひとりであることを認め、悲しんでいます。
合衆国の産業の発展は、カルヴェラたち山賊を西部地域から駆逐して、メキシコの寒村のような辺境の地への略奪へと追いやります。
村人たちはカルヴェラたち山賊と戦うことを余儀なくされ、そのためにクリスたちのようなガンマンを雇います。
クリスたちは産業の発展にともなって西部地域の共同体が整備されていくにしたがって、その職を失い、辺境の地にその職を求めることとなります。
合衆国の産業の発展にともなって生じる流れが、チコには、ガンマンたちが、メキシコの寒村の農民たちをも、略奪や殺し合いに巻き込むようになったと感じられます。
ブリットが銃に弾丸を込めて弾胴を廻します。ブリットはカルヴェラたちと戦うつもりです。
ブリットには、自分の銃を屑みたいに捨てられたことが許せません。ブリットは自分の銃の伎倆を向上させることに専心しています。彼にとってその銃を粗末に扱われることは、その伎倆を侮られ、軽蔑されるに等しいことです。
ヴィンは、キッパリと、村へ戻ることを公言します。彼は、「星の下で手枕で寝るのはもう願い下げだな。やっぱりあの村で白いシーツに寝るのが一番だ」と、その理由を述べますが、それは口実に過ぎません。
いったんは「あの村で白いシーツに寝る」ことを考えたヴィンは、その考えが実現できないものであることを認め、そんな考えを抱いたことを「罠にかかった」と云い、そんな考えを抱いた自分を「バカ」と、評しました。
そのヴィンが、いまさら「あの村で白いシーツに寝る」ことができると考えるはずもありません。ヴィンの考えを変えさせるような出来事は、何一つ起こっていません。
たとえ村に戻っても、村人たちが彼らに味方するとは思われず、彼らが戻ってくることを歓迎するとも思われません。
ハリーがそのことを口にします。
もともとハリーがこの仕事を引き受けたのは、大金を手に入れることができるまたとない機会とにらんだからです。その目算がはずれたからには、村に対する何の未練も執着もありません。ましてや村人たちから見離され、村を放逐される身であれば、村に戻ってカルヴェラたちと戦う理由は、何もありません。ハリーには、村へ戻ろうとするブリットやヴィンの心情が理解できません。
ハリーの友人であるオライリーでさえ、村に戻ろうとします。
クリスはハリーの心情を察し、無理に引き留めようとはしません。
ハリーは自分の銃を取ると、リーに向かって、一緒に去るよう促します。
「行ってくれ、おまえはだれにも借りはないんだ」
と、クリスは云います。
それに対してリーは、
「自分にある」
と、村へ戻ることを選択します。
リーは伎倆の優れたガンマンとして名を成しましたが、いまではその伎倆も衰え、敵の影に怯えながら毎日を過ごしていました。
いまその恐怖からは解放されましたが、それはカルヴェラによってもたらされたもので、自分の力で得たものではありません。
リーの洒落た身装は、誇りと自信に満ちた一流のガンマンのそれではなく、空虚な自尊心を示すだけの惨めなものになりさがっています。
リーは、伎倆の優れたガンマンとしての名に恥じない自分であることを証することが、自分に対する責任であると考えます。その責任を果たさなければ、リーはリーではなくなってしまいます。自分に対するその責任が、リーの云う、自分に対する借りです。
みなそれぞれに、それぞれの思いを抱いて、村へ戻ろうと決意します。
その決意は、ハリーには理解できないものです。
ハリーは呆れたように、「勝手にしろ。じゃあ、あばよ」と言い捨て、馬を走らせて去っていきます。