ニュー・ヨーク北部のウェストフィールド村に住んでいたグレース・ベデルと云う女の子は、新しい大統領の写真を見たとき、
「コワイ顔やなぁ。でも、髭生やしたら、きっとハンサムで、男前になるで」
と、思った。思っただけではなく、彼女はその意見を手紙で新大統領に伝えた。
この新大統領はその手紙に対し、「いままで大統領やってて、髭を生やした人はいてまへん。それに、いまからいきなり髭、生やし始めたら、国民は、『アホな大統領や』って、 笑いはせえへんでしょうか?」と、返事を書いた。
「そんなこと、ありまへん。髭のない大統領のお顔は、ニコワイんやもん。でも、髭生やしたら、きっとカッコようなりますわ。ウチだけやのうて、友だちもみんな、そない云うてますわ」
ワシントンでの就任式に臨む日、大統領はウェストフィールドの駅で列車を止め、デッキに出て群衆に声をかけた。
「この町に、わたしと文通してはる、グレース・ベデルっちゅうお嬢さんがいてはります。もしここにいてはったら、どうぞ、出てきてください」
彼女が驚きつつ出てくると、大統領は、
「やぁ、グレースさん」と、やっと生えた顎髭を撫でながら、「あんたの云うとおり、髭生やしてみたで。どや、男前に見えるか?」
グレースは感激して、
「よお似合うてはります。それに、あなたはきっと、いちばん立派な大統領になりはりますわ」
と、叫んだ。
彼女の予言は当たった。今日、世界中のすべての人々が、エイブラハム・リンカーン氏を、いちばん立派な米国大統領と認めている。